P-53の発見は当時のジャーナリストが遺伝子の守護天使(Guardian Angel of the Genome)、警護役(Guardian of the Genome)とも名付けた(1993年)ほど、癌死滅メカニズム解明のキーとして、25年以上を経たいまでも期待が持たれています。4. カルシノーゲン(carcinogen:発がん物質)とは癌化遺伝子(オンコジーン:oncogene)は、細胞がストレスやウィルス、カルシノーゲン(carcinogen)と呼ばれる癌発現物質(紫外線、殺虫剤成分、ダイオキシン、タバコのニコチン、*アフラトキシンなど)により触発され、がん化に向かい変異(mutation)すると考えられています。
*アフラトキシン(aflatoxins:カビ毒)はトウモロコシ、アーモンド、ピーナッツなどに発生します。5. 癌化遺伝子(oncogene)の発見まで癌化遺伝子(oncogene)が変異遺伝子として鶏から発見されたのは1970年です。
発見されたものは当初SRC癌遺伝子(*SRC- oncogene)と呼ばれていました。
*SRC:Steroid receptor co-activating factor1976年にはこの癌化遺伝子が遺伝等により正常細胞にも存在することが解明されています。
人間の癌化遺伝子発見の糸口は、1978年にSRC 蛋白(SRC protein)が*プロテイン・キナーゼ酵素(protein kinase family of enzymes)の一つだと解明されたことにあります。
この解明により1979年に最初のリボ核酸腫瘍ウィルス(RNA tumor virus: *HTLV-1)が発見されました。ウィルスは成人の白血病骨髄細胞から検出されたものです。
また1981年には肝臓がんの患者の肝臓からB型肝炎ウィルス(Hepatitis B virus)が発見されました。
その後ウィルスが癌遺伝子変異の起因となることの解明が進みます。
1986年にはRb 遺伝子(Rb gene:*retinoblastoma gene)が単離されました。
Rb 遺伝子の発見が、それからの癌遺伝子とP-53遺伝子など重要な腫瘍抑制遺伝子機能の解明に繋がっていきます。
*retinoblastoma(レチノブラストーマ)は眼の癌と言われる網膜芽細胞腫です。6. P-53癌抑制遺伝子発見の歴史P-53は1979年にデーヴィッド・レーン教授ほか複数の研究者(アーノルド・レヴィン:Arnold J. Levine)、ロックフェラー大学学長ら)によって発見されましたが、当初は、癌化遺伝子(オンコジーン:oncogene)と考えられていました。
デーヴィッド・レーン(David Lane)教授は英国スコットランド、ダンディー大学ガン遺伝分子学科教授(Molecular Oncology,University of Dundee,Scotland)。
1989年になり、*バート・ヴォゲルスタイン教授らも加わり、P-53は腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor genes)であることが解明されました。
P-53は癌細胞の増殖を防ぎ、癌の診断、治療に大きな役割を果たす物質として期待され、1995年には2,000を超える論文が発表されています。
これは単一の遺伝子研究では前例の無いものでした。
*バート・ヴォゲルスタイン(Bert Vogelstein)
ジョーン・ホプキンス大学薬学部教授( Pathology, Johns Hopkins University School of Medicine)7. お薦めしたいP-53自己抗体定性検査P-53遺伝子は癌の発現、進行とともに増加し広範囲な癌種に対し主として抑制に活躍します。
したがって体内のP-53存在量を確認すれば癌を早期発見し癌の進行程度が予測できますから、2000年代に入るとP-53自己抗体定性検査が、医師など関係者の間で話題となり、盛んに自己負担検査が実施されるようになりました。
2007年より保険適用検査となっています。
検査は、採血された検体(4cc)から、*エライザ(ELISA)方法(後述)によってP-53を検出するものです。
癌抑制遺伝子はいくつも種類がありますが広く様々な癌種に発生するのがP-53癌抑制遺伝子。
そのP-53を検知すれば体のどこかに癌が発生しているサインとなり、精密検査に進めば早期発見ができます。
検査は採血、検査結果は陰性、弱陽性(癌が出来やすい)、陽性(癌発生の可能性あり)、強陽性(癌発生の疑い濃厚)の4段階P-53自己抗体定性検査は基本的には「食道がん、乳がん、胃がん、大腸がん」などの検査が目的ですが、かなり疑わしくなっている場合は、複数の抗体(腫瘍マーカー)を組み合わせて検査します。
またその段階の方は「CT,MRI,*PET」や、さらに高度な機器による検査をします。
健康状態に異常は認められないが、発がんが心配な方は、初期検査としてP-53自己抗体定性検査の実施をお薦めします。
この検査は10種類以上ある他のマーカー検査より、いろいろな点で検知能力が高いといわれています。
ただし、癌が強く疑われる段階以外は保険適用とはなりません(8,000円前後の費用は病院により異なりますから検査される病院にお問合せください)8. (参考:おさらい) がん発症とがん抑制遺伝子が不活性化する好気的解糖「細胞老化と癌(その8 ):癌の増殖、転移を防ぐには:ミトコンドリアmtDNAの抗酸化」より。 https://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=590 がん抑制遺伝子が不活性化し、癌を増殖させるのは癌細胞の代謝といわれます。
ワールブルク効果*である*好気的解糖(aerobic glycolysis)は古くて新しい発見。
*今でも癌と好気的解糖に関して数多くの論文が発表されていますがペンシルバニア大学アブラムソンがんセンター(Abramson Cancer Center)のダン博士(Chi V. Dang)は「Links between metabolism and cancer:癌細胞と代謝の関係」の中でがん細胞の代謝に関して以下のようにまとめています。
「癌細胞の代謝では活性酸素が生じ、遺伝子変異を起こします。
遺伝子変異によりがん遺伝子が活性化し、呼吸活性が低下。
がん抑制遺伝子を不活性化させた結果、ワールブルク効果である好気的解糖(aerobic glycolysis)に導きます。
*ワールブルク効果( the Warburg effect):
「有酸素下で行われる癌細胞組織の代謝では、その糖質消費が通常組織の10倍以上」
これによって生じるグルコース(glucose:ブドウ糖)は大量の発酵糖質となり癌細胞の栄養素として癌細胞を増殖させていきます。
カロリー過剰は癌リスクを増幅させ、カロリー制限は癌細胞から個体を保護しますが、「ミトコンドリアのオートファジーである損傷遺伝子のマイトファジー(mitophagy:自食作用)は生体防御機構となっています」
「体細胞が酸素呼吸によらず発酵に依存することで細胞が退化し癌細胞が発生する」
との別の論文もあります。
スイス連邦工科大学のコッペノール教授(Willem H. Koppenol )は教材として「ワールブルグ博士の癌細胞代謝に関する昨今の概念への貢献*」を紹介する論文を書いています。
Otto Warburg's contributions to current concepts of cancer metabolism」9. (参考) 癌細胞組織の糖質消費をPET(陽電子放射断層撮影装置)で検査する意味PET(陽電子放射断層撮影装置:positron emission tomography) は高価な医療機器ですから設置医療機関は限られます。
かっては主として脳神経、脳卒中など頭部の検査に用いられてきましたが、全身の部位の糖代謝レベルを調べることができるため、解り難い原発巣、拡散を発見するにはCT,MRIに較べて精度が高いといわれます。
設備があるところでは多様な検査に用いられ、必要な方には保険が適用されます。
発がん検査では全身に行きわたる放射線薬品(18F-FDG)を使用しますので、その被ばく量を懸念もされますが、機器の放射線自体はCT,MRIに較べて少ないといわれ、発がん部位検査(ワールブルク効果の腫瘍組織糖代謝レベル検出)に推奨されています。
ただし癌の形状確認にはPETとCTを組み合わせる検査が必要となりますから、放射線被爆は常に検討されるべき事項です。
癌化細胞の活性化が考えられる患者には放射線被爆が引き金となることも予想されますから適用の必要性は専門家の判断が不可欠です。
(参考資料)
冨士見クリニック(和田英理博士)、株)保健科学研究所、School of Molecular Oncology,University of Dundee,Scotland、Johns Hopkins University School of Medicine初版: 2003年3月3日改訂版:2018年3月2日