ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第六十四話:「超大国が責務を放棄した世界の乱気流をどう捉えるか」
2016/07/28
最終更新:2026-09-08
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国際政治学者のウィリアム フォックス氏が、第二次大戦後の世界の指導力を考える上で提起したのは「米国とソ連と言う二つの“超大国”」だとして、「敵対する二極構造」という概念でした。 ソ連の崩壊を受け東西冷戦の時代が終った後は、米国が唯一の超大国として世界の警察官の責務を背負ったものの、それも約二十年を待たずして、オバマ政権の7年間半で、米国の相対的な影響力の低下が起こっており、今や世界は強力なリーダーシップを欠く乱気流状態へと突入してしまっております。 もっとも、米国の指導力は“空白”ではなく、オバマ外交を表現するなら「控え目」や「躊躇」と言う言葉が適当で、率先して最初に対処するのではなく、待ちの姿勢であると表現するのが妥当でしょう。 と言うのも、今般の大統領予備選における政策論争や世評から読み取れるように、米国が「内向き」に転じたことが主因であって、本質的な強さを無くした訳ではなく、これを単純化思考で一刀両断的に米国力の低下と判断するのは間違いではないでしょうか。現実の米国経済は著しい回復力を見せており、新しいソフトウエアの開発、ハイテク技術、宇宙開発技術、先進的医療、教育再興、生産力と購買力の強さなどを勘案し、国富と民富のストックとフロー両面も加味すれば、依然世界唯一の超大国に変わりはないのです。 歴史学と政治学では「大国」と言う言葉が多用されますが、「大国の興亡」の著者であるポール・ケネディ教授によれば、かつての大国だったスペインや英国が、生産力の増大に伴う経済・社会の「構造的な圧力」をかわす政策に失敗して「強国」の地位を喪失した歴史的事実が証明したように、現代の「大国」を自認する中国が、既にこの危機に直面していると警鐘を鳴らしています。 中国共産党による厳格な体制と、南シナ海・東シナ海での活動や主張から見えてくる横暴で唯我独尊的外交姿勢からも、この国が「超大国」になる可能性は考えられず、むしろ、旧王朝への回帰思考に凝り固まった大国意識は世界の秩序を壊す震源となっていると言っても過言ではないでしょう。 オランダのハーグ裁定を受け入れず、今般のASEAN外相会議において、属国とみなすラオスとカンボジアに圧力をかけて、声明文から南シナ海の領有権主張が国際法上否定されたことを削除させた一件からも、とても国際社会の責務を負う心構えが一片もない異端国と言うほかありません。 それにしても国際司法の裁定に、「紙屑」だとしか反論できない中国の「外交無知」には理解しがたいものがあり、国家指導部や中国ジャーナリストの「国際法音痴」は悲劇的で、 北京の外交政策決定プロセスもマスコミの発表ぶりも、前近代的暗愚国家の様相を呈しているのが現実です。 問題は、中国共産党の政治局常務委員をはじめ、外交を司る国務委員やその下部の中央委員に至るまで、国際法(国連海洋法、領海、排他的経済水域、大陸棚、低潮高地等々)を知ろうとせず、そもそも「法の支配」という発想を持たないと、多くの中国通の識者が断じ、国連の常任理事国の特権を享受しながら、国際法を無視する態度は自己矛盾に過ぎないと評しています。 中国経済の低迷は、国家経済(国営企業)と民間企業の格差、過剰投資バブル崩壊、生産過剰対策と内外需不足解消策と言った経済コントロールを喪失しており、大いに依存度を高めてきたEU諸国の苦悩の主因ともなっているようです。 中進国の罠と言われる国民一人当たり1万ドルの壁にぶつかり、一方で富裕層の資産が大量に海外逃避しており、金融為替問題が危惧され始めて、序走もままならぬAIIBの大失敗さえ、囁かれるようになっています。 特に英独の苦境は深刻なようで、英国のEU離脱問題や、メルケル独首相の度重なる中国首脳との折衝がその背景を如実に物語っているそうです。 アジア外交も頓挫しており、台湾や韓国との協調体制の崩れを始め、領海問題で離反したフィリピン、ベトナム以外にも、AIIBへの期待外れ、経済支援の約束不履行など諸問題が続発し、結果、日米豪への支援要請が益々強まっています。 そうした経済不振の責任の押し付け合いを巡って、共産党権力闘争がステージを変え、毛沢東型の個人独裁制への回帰を目指す習主席と、鄧小平が先導した集団指導制維持派の李克強首相ら党中央政治局多数派との亀裂が表面化して来たようです。 長老らが煽る“李克強への交代”説が聞こえてき始めた中、習政権二期目の芽が消えつつあるように見受けられるのです。 オバマ軟弱外交がイラク、アフガンやリビヤの後処理に次々と失敗し、ISの勃興とテロを止められないことが、現今のシリア抗争の延べ引きとイラン問題をうみ、盟友サウジアラビアの離反をもたらしたのみならず、NATOの絆を緩め、ロシアのウクライナ侵略を傍観するという悪夢に繋がりました。 オバマ政権初期の見せかけの平和主義外交に付け込んだのが、“G2”構想で米国を懐柔しようとしたのが、習中国でしたが、その後の米中経済折衝の躓きや、アジア太平洋における中国の横暴に業を煮やした米国共和党議会の国務省への強い働きかけもあって、ついに民主党外交も方向転換を余儀なくされ、現下の米中対立にまで及んでいる訳です。そこで気になるのが、米国の次期政権、一体ドナルド トランプとヒラリー クリントンのどちらが新大統領に相応しいか、というのが、米国民のみならず、今や世界の注目を集めているところです。 両党大会の成り行きから見えてきたのは、まずトランプ陣営が有能な政策立案ブレーンを確保出来ぬまま、本選への足場固めから共和党主流派の支持取り付けを計るための政策面での歩み寄りに失敗し、党重鎮の大会欠席やライバル候補との関係悪化の修復も叶わず、辛うじて指名こそ獲得したものの、代議員得票率は異例の低率で70%弱しか得られなかったことで党内亀裂をうみ、従って 白人低所得者層のみの票田しか固められず、白人中高所得層と女性、有色人種の大半の支持が得られそうもなくなったことは、共和党勝利の芽を摘んでしまったと言えそうです。一方の民主党クリントン女史は、予備選を争ったサンダース氏の支持を取り付け、予備選とは有権者の母集団が異なる本選に向けて集票力を決する多額の選挙資金を確保した上、何とか民主党からの指名一本化に漕ぎ付けるのを確実化しているだけに、トランプに対して、かなり優位な立ち位置を確保したと思えます。 世界の指導者の資質面から、米国次期大統領に望まれるのは、図抜けた知性、賢明さと思慮深い知恵と抑制力でしょうから、過激な発言が止まず、威圧と強権姿勢を改めないトランプ候補より、良きアドバイザーに恵まれたクリントン候補の方ではないでしょうか。 かつて太陽の沈まない帝国・パクスブリタニカと呼ばれ、南極を除くすべての大陸に植民地を持ち、七つの海を支配した大英帝国は、コモンウエルス連邦と言う緩やかな連合体として53もの諸国と今も親交を持つUK(連合王国イギリス)がEU離脱を選択したり、その後継者としてパクスアメリカーナの称号を得た米国さえもが、ナショナリズムに引きこもる姿勢を見せるのも外交に疲労困憊した“移民国家の宿命的弊害”かもしれません。 その点、経済成長率こそ低位にあるも、国富並びに私有資産の蓄積が世界のトップクラスを堅持し、国内民族宗派対立問題や諸外国に比し深刻な貧困格差もなく、強い社会保障ネットワークが維持されており、日米安保やG7を通じて欧米先進国との強固な友好関係を堅持する我が国日本こそ、世界へ向けてより積極的に発言し、国際社会の為大きな役割を担うことで、アジアの諸国を勇気づけ、21世紀のパクスジャポニカへの道を推し進めることになることを確信する次第です。 |
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