|
1. 生野菜の食べ方に工夫をするタイ人の食生活

タイ人は中国雲南省にルーツを持つといわれ、統一国家の建国は13世紀と比較的新しい国ですが、外敵の侵略を防ぐことができたために、独自の文化を築いてきました。
その背景は強い信仰心と闘争に耐える強靭な体。
最近の数十年はタイ料理が世界の関心を集めていますが使用している食材はほとんどが外来でタイのオリジナルではありません。
ところが、その食生活はオリジナリティーにあふれています。
調理法にもインドシナ半島諸国や他のアジア諸国とは異なったユニークなバラエティーがありますが、最も優れているのは「健康食材を日常的に摂食する工夫」
要するに調理法とはやや異なる食材の「飽きない食べ方」でしょう。
熱射と感染症に負けない強い体作りに効果のある食材ならば徹底的に採り入れ、自国の食文化として消化、昇華させているのがタイ人の食生活。
同じような食材は東南アジア各地にありますが、食べ方は様々。
健康的な食材を飽きずに、しかるべき量を日常的に食せるように工夫をしているのがタイ料理のユニークなところです。2. スリムなタイ人を駆逐する欧米食文化

街頭ウォッチングでは肥満、オーバーウェイト、健康体が同比率に近い最近の若者(バンコク中心部)
*スリムなタイ庶民の食事と食材:伝統食と欧米食が拮抗しつつあるバンコクhttps://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=254
「タイ人はなぜスリム」をテーマにタイ人の健康食生活の秘密を探り続けて35年間、探れば探るほどそのユニークな食生活に驚かされます。
*スリムなタイ庶民の食事と食材:ナス科野菜のクロロゲン酸が高血糖を防ぎ肥満防止にhttps://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=441
*スリムなタイ庶民の食事と食材:タイの伝統健康野菜3つの秘密https://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=256
*スリムなタイ庶民の食事と食材:トムヤンクンとトムカーガイhttps://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=253

この15年来タイにも近隣諸国から安価な食材がなだれ込んでいます。
交易スピードが加速する近代に食材の選択が他国と大きく異なることはないにせよ、タイ人は調理法や食べ方で工夫をし、健康食材を日常的に食す食文化を築き上げています。
その健康的な食生活が正しいことは、わずか20年弱で欧米の食生活に染まった(害された?)
若者や中高年の健康が肥満、心臓血管病の急増という悲惨な結果を招いていることで証明できるようになりました。
スリムな若者の比率は低下するばかりですが、保守的な食生活を死守する若者もまだまだ健在。
今回はタイの食生活の中核を占める野菜のトッピングとミェンカムをテーマに取り上げました。
*写真は上記取材と重複するケースがあります。3. 生食野菜は料理のトッピングとミェンカムで消費される野菜王国タイでは、異種、亜種を数えれば300種類を超える野菜があるそうです。
野生の山菜や樹木の若芽、花、蕾、種なども50種類は超えるでしょう。
バンコクでは卸、小売を対象としている野菜、果実市場が都心に大小いくつもあり、24時間、どこかで商品を買うことができます。
葉野菜、根菜、果実野菜、樹木采、花野菜、樹の実など植物性食材の豊富なことはインドシナ半島でも図抜けています。
貪欲に他国の健康食材を採り入れてきた歴史があるからでしょう。
熱射と感染症に負けない体を造るタイ人健康の秘密の一つが生食野菜。
サラダ、炒め野菜、煮野菜はどこの国でも一般的ですが、タイは生食野菜の食べ方のバラエティーが格別に豊富です。
生野菜が健康的とばかり「大盛りサラダ」を毎日食べるのは難行という人はどこの国でもマジョリティー。
タイ人は外来素材でも食べ方に独自色が強く、毎日食べれるように工夫をしています。
トウガラシ、ニンニク、ナス類などの大量生食はアジアの他民族にはなじめないものも少なくありませんが、タイ人はそれを見事に習慣づけています。
タイでは生野菜の多くが麺、米料理やトムヤンなどのスープ類(ケーン)のトッピングやアペタイザーのミェンカム(miang kham)で食されます。
サラダ同様に栄養分流出の少ない合理的な摂取法です4. 主食に生野菜のトッピング



無料のトッピングにバジルが少ないのはキャベツ、もやしに比べてやや高価だから.
店によっては写真下のようにふんだんに供される

生野菜は米飯、麺類、ゲーン(スープ)料理のトッピングとして大量に消費されています。
他国と同じ種類の野菜でも、香りや苦み、辛みが強いのが好み。
トッピングで特徴的なのがシソ類の葉野菜。
(上の大きい写真はスウィートバジルのバイ・ホラパ)
加えて心臓血管に優れた効能を持つシトルリン豊富な瓜(うり)類、未熟な青パパイヤ、青マンゴー、青バナナが野菜としてこれに加わります。
チャイブ、にんにく、タマネギの茎などのねぎ類、とうがらし、フェンネルなども香辛料ではなく、トッピングの生食野菜として大量に食されます。
近年は安価なトッピング素材としてモヤシ(スプラウト)や防米風のキャベツ、レタス、トマト類も増えてきました。
5. アペタイザーは野菜でミェンカム(miang kham)



(写真上左)ハイゴショウ(Piper sarmentosum Roxb)(バンコク)
タイの俗称:バイ・チャプー:バイ・チャプルー(bai cha-poo、bai-chaphloo)
バイはタイ語で葉のことです。
(写真上右)インドナガゴショウ(Piper longum)(ホーチミン)
いずれも食欲増進効果のあるコショウ科(Piperaceae)
ハイゴショウは胡椒(こしょう)が一般的になるまでは胡椒同様な香辛料として世界的に使用されていたといわれます。
ミェンカムはタイ語で一口分(kham)を包む(miang)という意味。
生野菜文化のスターターともいえます。
ハイゴショウ、ツルムラサキなどの葉野菜でナッツ類、生唐辛子、ニンニク、刻んだタイ・ライムなどを包み、ペースト・ソースのナンプリック(Nam-Prik)などで食します。
欧米式にセロリ、キュウリのスティックをディップソースで食するのとは異なります。
最近のタイ首都圏では健康面(腎臓結石)からハイゴショウを避ける人もいるために刺激の穏やかなツルムラサキ、レタス、キャベツなども使われます。
外見が類似している近縁のベテル(betel :Piper betle:Piperaceae)は避けるべき要注意植物。幻覚作用、覚醒作用があるといわれます。
インド、バングラデシュやベトナム、ラオス、タイなどの山間部では噛み煙草のような嗜好品として利用されています。
ミェンカム(miang kham)はレストランのメニューではオードブルの一部ですが、屋台クラスでは無料サービスが主流。
スーパー、コンビニなどでも様々な組み合わせのセットが恒常的に売られており、家庭生活に密着しているアペタイザー。

写真上はスーパー、市場で売られる一人前のミェンカム生野菜キット。
様々な組み合わせがありますが、写真のサンプルにはチャ・オム(シャオム:樹木の新芽と花序)、ブオップ・リアム(トカドヘチマ)、マクワ・ポ(小さな茄子)、キュウリ、タケノコ、キャベツが入っています。
添付のディップは味噌ベース欧米式のサラダ・メニューはタイ式レストラン、屋台で見かけることはほとんどありません。
レストランではオードブルやサラダとして供される生野菜類も街では、無料で食べ放題の屋台が多く見られますから、野菜類は無料という認識なのでしょう。
6. ミェンカムの主役はファッ(ク)・プラン(Phak・plang)

和名:蔓紫(ツルムラサキ)
英名:Malabar nightshade.
学名:Basella rubra L .Basellaceae (ツルムラサキ科)
バンコクでの呼び名:ファッ(ク)・プラン(Phak・plang)
欧米人はセイロン・スピナッチ、クライミング・スピナッチ(蔓性)とも呼びます。
葉、蔓(つる)、花、シュート(若芽の枝)は非常に若いうちに食する必要があり、ミャンカム(ミェンカム)としての食べごろは短期間です。
学名のRubraは蔓がルビー色の意味(写真下右)であり、グリーンの学名はBasella albaという人もいますが、タイ市場では緑(写真下左)でも、rubraでとおしています。
日本産ツルムラサキと異なり灰汁(あく)が強いので常食の人以外に生食はきついですが、タレで食べるミャンカム(ミェンカム)の、包み素材になります。
ヌメリがあり、刻みタマネギ、トウガラシと合います。
学名にちなんだサポニンであるバセラサポニン類(Basellasaponins)、オレアナ・タイプのトリテルペンを含む薬用植物として消化器系の生薬となります。
(oleanane-type triterpene oligoglycosides)。

(写真上)Malabar nightshade:Basella rubra L: ツルムラサキ.蔓に緑と赤がある.
家庭の生垣として栽培し、毎日食べる人が多いという.(写真はシンガポール)

(写真上)日本で売られているツルムラサキ.左は湘南産.右は那覇で購入した沖縄産

ツルムラサキ(Basella rubra L)(バンコク)
7.生野菜を美味しくするナンプリック(Nam-Prik)
ナンプリック(Nam-Prik)は日本流に表現すれば「タレ」です。
発酵海産物の海老カピー(kapee)や魚醤(ナンプラー)、味噌などにシャロット、ニンニク、唐辛子、ピーナッツ、揚げバナナなどを入れて作ります。

カピーはマレーシアのベラチャン(ベラカン:belacan)とほぼ同じものです(写真上右)。
ナンプリックには種類がいくつもあり、Nam Prik Ma Kham(ナンプリック・マ・カー)のように色々な名前がついています。
欧米のサラダ同様に野菜を大量に食べることができる前菜用ソースのひとつです。
屋台やコンビニ、スーパーではビニール小袋に入れた多種類のナンプリックを買うことが出来ます。
8.トッピング生野菜の主役はバジル属しそ科(Lamiaceae)のバジル属(Ocimum)は交配が容易なために、各国、各地で変種、亜種に多様化して、色、形、香りが様々。
市場ではプロでも識別できない人が多く、混同しています。
タイにもバジル類の変種、異種は多々あり、香りが各々異なりますが、同じ種類も地域等によって個体差があります。
学者は種目を6種類くらいに分けており、遺伝子も保存されているようですが。
消費者はバジル類の通称や形にこだわることはありません。
市場では香り、味で選ぶべきでしょう。
マイルドなバジルより香り、灰汁(あく)が強い方が薬効はあります。
バジルの灰汁には有毒なテルペノイド、アルカロイドの報告が知る限りはありません。

(写真上)時計回りに左から茎が紫色と緑色のタイバジル(スウィートバジル)
その右隣がホーリーバジル(バイカパオ).その下がパックチー・ファラン(大葉香采)
9.スウィートバジル(バイ・ホラパ:Bai Hora-Pa)

(写真上下)
英名:スウィートバジル(Sweet Basil)
学名:Ocimum basilicum通称:タイバジル

タイ産スウィートバジルの多くはイタリア、日本で普及しているスウィートバジル(コモンバジル:メボウキ:写真下)とは異なり、強いアニス(anis)の香りがあります。

10.レモン・バジル(バイ・メン・ラック:Bai Mang Luk/Maeng-lak)

英名:ホーゥリー・バジル(Hoary Basil )。
学名:Ocimum canum Sims マイルドなためにサラダ用野菜としてトップクラスのレモン・バジル(バイ・メン・ラック:Bai Mang Luk/Maeng-lak).
レモンの香りがする。一部ではwhite basilとも呼ばれます.
咳等に効果があるというシネオールなどの精油を0.7%も含有します.
11.ホーリー・バジル(バイ・カパオ:Bai Ka-pao)

英通称名:ホーリー・バジル(Holy basil)
学名:Ocimum sanctum.L. or Ocimum tenuiflorum L.和名:カミメボウキ(神目箒)
バイ・カパオ(Bai Ka-pao)/バイ・グラパウ(Bai Grapow)はやや辛いバジルで、クローブ(clove)の香り。
鶏やカエルと共に炒めたり、カレー、炒め飯(カオ・パッド)(Khao Pad or Khao Phad)に加えたりします。
日本人には刺激が強すぎますが、タイでは生食も普通。
葉や茎の色が赤味をおびたもの、白っぽいものなど変種も色々あります。
インドでは伝統料理、伝統治療のアーユルベーダに多用されて、聖なる野菜(Holy or Sanctum)と通称。
インドでポピュラーなシュラッビー・バジル(Shrubby Basil:O. gratissimum)
も市場で見かけますがタイ首都圏ではマイナー。
シュラッビー・バジルは防腐や鎮痛剤として重用する人もいるようです。
12.香菜を超える大葉香采が パック・チー・ファラン(Phak chee farang)

和名:オオバコエンドロ和通称:大葉香菜英通称:タイ・パセリ.ラオス・コリアンダー.
葉がのこぎり状のためにSawtooth corianderの通称もある.
学名:Eryngium foetidum (Apiaceae;セリ科).
中華系でポピュラーなコリアンダー(香菜:いわゆるパクチー、コエンドロ:coriandrum sativum)はタイでも料理のトッピング、薬味としますが、肉、大型の魚料理などにはファランを使用するタイ人が多い。
香りはコリアンダーに類似。タイではサラダ用の生野菜としても好まれている。
原産といわれる中米、南米はじめ世界各国で愛用されて多様化している。
地域により形状、香りが異なっているが元は同じ.
通称イタリアン・パセリなどにneapolitanum などのバリエーション名をつける人もいるが、ナンセンスなくらい近似種は多い。
(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)
初版:2003年02月改訂版:2011年2月改訂版:2014年2月改訂版:2022年9月
|