感染症の海外ニュースと解説

マーズ対策に生きるサーズの教訓:
ステロイドホルモンによる骨壊死にご注意

2015/06/12
最終更新:2026-09-14

サウジアラビア発の中東呼吸器症候群(マーズ:MERS:Middle East respiratory syndrome )は重症急性呼吸器症候群(サーズ:SARS)の兄弟。感染者、死者が1週間で3倍増近くなり韓国の政治経済に大きな打撃を与えていますが、サーズに対処をしてきた体験、対処法を活かせば日本では恐れることはありません。

マーズはスペイン風邪、香港風邪、ロシア風邪とも親戚ですから先人が日常的に対処してきた知恵から多くの対策を学べます。現在インフルエンザと呼ばれる伝統的な呼吸器感染症が最初に拡大したときは2,000万人以上が死亡し、まさにパンデミック。マーズの比ではありませんでした。

日本は小さな島国であり防疫体制も整っています。国民も伝染性のある感染症には敏感ですから韓国発で蔓延する危険性は少ないといえますが、韓国系居住者が多く、交流が頻繁なだけに防疫にはそれなりの覚悟が必要でしょう。そこで参考になるのがサーズ流行時の北米大陸の先例。
2015年ノーベル賞:屠呦呦(Tu youyou)博士の発見したマラリア特効薬アルテミシニン
https://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=300

1.サーズを運んだ北米大陸の中国系移民

2003年頃の北米大陸の中国系移民は、中国の外貨事情好転と政治環境の変化により、本国との往来が頻繁でした。カナダはアジア圏を除くと唯一のSARS死者多発国。米国、カナダの大都市には中国系移民が多数在住しているため、汚染中心地と地理的な距離が遠いにかかわらず、感染拡大の下地がありました。2003年5月30日のデータではSARS感染の疑いがあるカナダの患者は188人、死者30人以上を記録しました。同じ北米大陸の米国では死者が一人も出ませんでしたからその違いが当時の話題でした。

2.なぜアメリカ合衆国にサーズが侵入できなかったのか

カナダと比較して米国がサーズ感染症を防御できたのは、偶然と、幸運ではありません。行政当局の感染症に対する関心の度合い、危機感の相違が、結果を左右した第一の答えといえます。米国はアルカイダやイラクの微生物テロ対策に万全を期しており、微生物に対して危機感を持っています。従来から米国厚生省(NIH)の部門であるCDCなどの感染症に対する国際的な情報収集、防疫体制、広報体制は世界一。CDCはSARSが広東省で発現した初期段階から、情報収集、調査、研究に世界的なリーダーシップを発揮していました。

3.民族間交流の急増が感染症を拡大させる

中国発のSARS感染拡大は、北米大陸の両国ばかりではなく、世界の防疫体制に新たな問題提起しました。中国系移民が世界人口の10数%を超える時代。中国大陸での風土病、疫病、変異ウィルスなどが、国際的に感染拡大する可能性が高いことが、SARSによって明らかになったからです。今回のマーズ感染症の発端は中近東。サウジアラビアで最初に発見されました。原油価格の暴落があるとはいえ長年の蓄積を持つ富裕なサウジアラビアやアラブ首長国連邦。新参のエミレーツが世界中に航路を拡げています。中東発の感染症も中国発同様。世界に拡がるのに時間はかかりません。現在の日本では隣国の韓国の汚染が話題ですが、中東の実態数ははるかに大きいですから、日本に持ち込まれる可能性は中東のほうが確率が高いでしょう。

4.80年代以降に急増したカナダの中国系移民

中国系移民の歴史が古い北米大陸主要都市では、台湾、中国経済の急発展と、香港の中国返還を機に中国系移民が急増。1980年代からは台湾系、1990年代からは中国本土系移民が急増していますが、いずれも富裕層。地域経済にも大きな影響を与えています。すでにカナダでは中国人が、英系、フランス系に次ぐ第3の人種。オンタリオ州(トロントなど)には第2位のフランス人(4.30%)に迫る約45万人(3.58%)、ブリティッシュコロンビア州(バンクーバーなど)では英国系(73.04%)に次いで、第2位の約30万人(7.96%)が在住。SARSの統計は人種別には発表されませんから、カナダの感染者、死者の人種別明細はわかりませんが、SARSはトロントを中心に拡大しました。都市部に中国系住民が集中していることと(トロントでは総人口の16%くらい)、SARS汚染の関連が深いことは否定できません。中国により近い、日本、韓国、インド、タイ、マレーシアなどに感染者や死者が非常に少なく、太平洋を越えて、より遠方のカナダだけに死者が多発したのは不思議なことです。カナダでは感染症防疫体制が未熟なのか、一度、宣言された終息がWHOにより取り消された事実もあります。医療体制、防疫体制に問題があったといわざるを得ません。

5.アメリカ合衆国の中国系移民

一方、米国では黒人やヒスパニックには人種別人口順位で劣りますが、中国人*は総数約1,600,000人、カリフォルニア州だけで約710,000人が在住しています。
*中国系といわれる範囲まで拡げると数字は倍増以上といわれます.線引きは至難.
ニューヨーク市(361,531人、2000年)と90年代に入り10万人以上が急増したサンフランシスコ市(460,000人:1998年推定)がその中心都市です。米国の中国人社会は歴史が古いだけに思想や公衆道徳も欧米風に転じています。衛生管理に関しては中国系移民の歴史が古いだけに、カナダに移住してきた中国人とは衛生思想、道徳観が異なります。これがカナダとの差、第二の答えでしょう。

6.中国でSARS治療者に骨壊死が多発

世界的な防疫体制が功を奏しサーズの拡大がとりあえず収束した3年後の2007年になり、最大の被害国である中国では新たな問題が発生しました。香港などからの報道によれば、SARSに直撃された中国では、退院したSARS患者に副腎脂質ホルモン剤が原因と疑われる骨壊死が多発。サーズに関しては本元の中国が報道規制をしたために感染者、死者などの数字は官憲が発表する数字のみ。推測もできず、実態はまったくわかりませんが、情報が比較的確かな香港では、骨壊死患者が最低でも50人を超えると発表されており、500人くらい発生している可能性があるといわれていました。当時の香港のSARS患者は約1.800人、死亡者は299人でした。中国全体の平均でSARS 罹病者の10%以上に骨壊死発生が疑われており、未確認ながら北京などでは、病院によっては35-70%の高率な骨壊死発生が見られる、という報道は注目に値します。中国でSARS治療に投与された医薬品は、副腎脂質ホルモン剤とインターフェロンが中心であったようです。SARSが大量発生した2003年3-4月ごろには、通常投与量の10倍近くの副腎脂質ホルモン剤が処方された、といわれていますから、骨壊死が高率に発生しても不思議ではありません。副腎脂質ホルモン剤は膠原病やアトピーなど難病の治療に多用されて、優れた効果を示す反面、骨壊死など、多くの重大な副作用があることでも知られています。SARSの喘息様症状抑制には著効があったと思われますが、骨壊死がおこる可能性も高かったといえます。

7.骨壊死:osteonecrosis

骨に血液が供給されなくなり、骨が永久死する症状。関節の近くでは関節も破壊する。原因としては怪我があげられますが、ステロイド医薬品の過剰投与、アルコールの多飲も原因となるようです。骨壊死は骨粗鬆症とは原因が異なる症状。

8.副腎皮質ホルモン:adrenal steroid hormone

副腎の外側の部分にある、副腎皮質から分泌されるのが副腎皮質ホルモンで、略称してステロイドホルモンとも呼ばれます。ステロイドホルモンは血糖、脂肪、電解質、骨、筋肉などの代謝に関連の深い物質。このホルモンは中枢神経など脳の働きと密接な関連があり、ストレスにより分泌作用が大きく相違するために、ストレスは人体の生理作用を混乱させます。一般にステロイドと呼ばれている医薬品は抗炎症作用、免疫抑制作用(アレルギー症状などの過剰免疫)が医薬品としての主用途となっています健常者の場合は、副腎から1日当たり20mgから30mgのステロイドホルモンが分泌されているといわれますが、SARS治療には300mg-500mgのステロイドホルモンが投与されたといわれています。
「ステロイドホルモンが過剰免疫作用をコントロールする」
https://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=188

9. 最近の中東地域のマーズ感染例報告

世界保健機関(WHO)によれば、最近のマーズ確定感染者は6月中旬現在、世界で1,220人強。死者は450人前後。感染者発生国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、ヨルダン、イラン。韓国を除く中東地域外では、ドイツ、フィリピンで発症が報告されています。