湘南文化よもやま話:湘南を愛した人々

大正生まれの湘南人「遠藤晴雄」さんと遠藤貝類博物館

2014/06/05
最終更新:2026-09-13











1.神奈川県真鶴町岩海岸の遠藤貝類博物館神奈川県真鶴半島の西風を防ぐことができる東側には古くからの住宅地が広がり、「岩」という海水浴場(写真上)があります。
1986年遠藤貝類博物館はこの岩海岸に面したところに建設されました。
博物館は遠藤晴雄氏の個人運営。
訪れる人も少ない小規模な博物館でしたが、遠藤夫婦の暖かい対応がありました。
解説は上品な奥様が担当。この博物館に魅せられた初代葉山しおさい博物館長(未確認)竹中さんが採取したタカアシガニなど甲殻類の標本も沢山ありました。
また同好の方が蒐集した世界の貝の切手が大量にあり、切手に関心のある方には一見の価値があるものでした。
遠藤貝類博物館は世界を始め日本にも多い貝のコレクターが、資金力で買い集めた標本の博物館ではありません。
遠藤氏がフィリピンなど海外に採集に出かけたときの標本や購入品もありますが、ほとんどは中学生の頃から神奈川県相模湾の葉山や真鶴などで収集した貝。
4500種以上50,000点といわれます。

コレクター遠藤晴雄氏のシンボルマークとなったオキナエビスガイ2.湘南人の遠藤晴雄氏遠藤晴雄氏は1915年(大正5年)真鶴町生まれ。
真鶴半島は湘南の生活文化が根付く三浦半島とは異なりますが湘南圏とかかわりを持つ人が多く、生活文化には湘南の香りがあります。
戦後湘南文化の根源にあるのは「豊かな心」と「自由」の思想。
遠藤貝類博物館を創設した真鶴人遠藤氏の質素で心豊かな生活はまさに湘南人。
1929年から湘南の逗子開成中学に入学したことがその心を育んだのでしょう。

遠藤氏は逗子市で寄宿生活をしていました。
昭和天皇の海産物研究を支えていた京大の細谷教授に可愛がられ、葉山の御用邸に滞在される天皇陛下の収集に立ち会われたことも度々だったそうです。
遠藤氏は逗子在住の細谷教授の貝類に関する共同研究者とも言える人でしたが、学歴や博士号に関心が薄かったのも、まさに湘南人そのもの。
風光明媚な真鶴に広い土地を持ち、町の教育長をやりながら、貝の魅力にはまり込んだ氏は貝を海の貴婦人と呼んでいます。

遠藤氏が友人、知人に送っていた年賀状のイラスト(下の写真)を収録した小冊子.
写真右は旧博物館の入場券.当時の入場料は200円.

小冊子の元となった年賀状と右の写真はサガミバイのイラスト下の写真は貴婦人とも呼んでいたオオイトガケ.かっては超高価な貝だったようです.

遠藤氏と同様に貝の美しさに魅せられたのがニュージーランド南島のフラテイ(Flutey)夫妻.
小さな漁村で、磨くと真珠文様が現れるヘリトリアワビ(パウアシェル)
を磨き続けて楽しんでいました.遠藤氏と異なり、学術的な分類学などに関心が薄くただ一心にリビングを飾る貝の美しさ(たぶんアワビの美味しさも)を楽しんでいたようです.
「ニュージーランドの観光立国を支える個人コレクション」「パウアシェル・ハウス」
 3.遠藤晴雄氏の想いで真鶴の海を見晴らす2階の研究室で様々な思い出話を1時間以上も伺ったことは懐かしい想いで。
高価なオキナヱビスは27種あるそうですが、それを網羅したいため、所持していた宅地や山林を売って購入した話や、学生時代に寄宿していた逗子近郊葉山海岸の話。
面白い話もありました。江ノ島近辺の海岸で南方系の珍しい貝が発見されたことが度々あったそうです。
そのたびに専門家達は貝の生態系が変化しているのではないかと、一生懸命に調査。
後の照合でそれが江ノ島などで売られている、世界の貝の捨てられたお土産品だということが判明しました。
また貝の名前が細かく分類されすぎて、功名争いのようになっていることも憂いておられました。亜種程度の生物にもどんどん新種のような異なる名前を付けてしまうことは他の生物でも同様。一般の人は戸惑うばかり。
貝の美しさに魅せられて研究をしていた純粋な湘南人は名誉欲の強い研究者を異質に感じていたようです。4.移転した遠藤貝類博物館(真鶴町立遠藤貝類博物館)


(写真上左)コシダカオキナエビス (写真上右)プシェットオキナエビス(写真下左)タイセイヨウオキナエビス (写真下右)リュウグウオキナエビス
               
                  真鶴半島の西側突端の崖下は三ッ石(みついし:博物館庭園から展望)
                  と通称される海岸や公園。
                  博物館が作られた見晴らしの良いレストハウスの近くには                  染織で著名な中川一政美術館があります。

            
                  真鶴半島突端の遠藤貝類博物館に至る道は森林浴ウォーキングに最適.
                                     巨木の豊かな森林が続きます。


2006年に遠藤氏が91才で亡くなられた後、2010年4月に寄贈されたコレクションが新しい町立博物館となって半島西側のレストハウス内に継承されたのはうれしい限りです。
博物館が標本を静的に分類展示してあるだけなのが残念ですが、遠藤氏が生涯にわたり力をいれた、オキナエビス貝のコレクションや相模湾のほとんどの貝を見ることが出来ます。
一般の方が相模湾で集めた貝の名前を調べたりするのには最適。
                              
高齢者が増えて自然科学、美術などのコレクション寄付の希望が急増しているそうですが、受け入れ可能な博物館、美術館は半分もないそうです。
閲覧の価値が少ないコレクションも多いそうですが、貴重なコレクションが捨てられたり散逸したり、埋もれてしまうことが少なくない現代では非常にラッキーなケース。

(写真上)遠藤氏が好きだったショウジョウガイ(写真下)遠藤氏のコレクションは真珠貝系、螺鈿に使用されるアワビ系に加えて、ほら貝系が充実しています。




(しらす・さぶろう)

初版:2004年12月5日改訂版:2010年4月